余白のつぶやき・19
戦中派の喧嘩
べっしょ ちえこ
pp.229
発行日 1981年2月1日
Published Date 1981/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661922724
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私は、貧乏家に生まれいじけて育ったせいか、人間関係においてはからきし意気地がなくて、こどもの頃から人とちゃんとした喧嘩をしたことがない.したくとも出来ないのである.それが、こないだ電話で凄いのをやってしまった.相手は肝胆相照らす仲といってもいい三十年らいの古友達である.この年になって、なんだっていまさらそんなことをしてしまったのか.
そもそも喧嘩の発端は、その日の朝偶然にみたテレビ番組であった。それは、女性史研究家のもろさわようこさんをゲストとして、戦争中に爆撃で亡くなった一人の女子挺身隊員の、心の軌跡を追うというものなのだが、画一教育によって目つぶしされたその愛国少女の像が、ほとんど完全にかつての私自身と重なるということもあって、ついついひきこまれたのだった.
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