連載 思い出すけっち[あの人、あの時、あの言葉]・10
患者の身になって考えることの難しさ
温井 みさ
pp.958-959
発行日 1989年10月1日
Published Date 1989/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661922375
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死の淵から夫を連れ戻したNさん
しばらく音信のなかったNさんから電話があった.80歳を過ぎたはずの老婦人のNさんの声には張りがあり,「ああ,お元気なのだな」と安心した.Nさんは私には忘れられない人.40数年前,職場で倒れて病院に担ぎこまれた夫に付き添い,献身的に看護された.
患者は意識がはっきりせず一進一退,目を離せない状態が続いた.しかし,医師から予後不良を告げられても,万に一つも生きられるかもしれないとの望みに託した看とり,夫を生かしたいとのNさんの気迫に満ちた態度には圧倒される思いだった.意識回復後,夫が苦しむ時は,なで,さすり,汗ばめば身体を拭き,夜はゆっくり話しかけて眠りを誘い,両便の世話を看護婦と一緒に手伝っていただいた.時に看護婦の説明だけで理解しにくいことがあると,Nさんなりに解説や補足をしていただいた.
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