特集 医療過誤を防ごう
医療における安全性
林 正秀
1
1杉並組合病院
pp.10-14
発行日 1969年5月1日
Published Date 1969/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661917584
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
日本の医療は,医療における安全性ということでは,かつてない困難に直面している。その一つが近年の医療過誤の増加である。
ところで医療とは,本来,人間の生命や健康に対する危険の排除を目的とする技術を媒介とした社会的行為にほかならない。この意味で医療・技術の論理は,論理的に,安全性の論理そのものなのである。近年の医療過誤の増加に対し,安全の医学・医療といった発想をするものもいるが,医療・技術の本質を知らないものといえよう。元来,安全でない医学・医療は存在しないのである。したがって医療における安全性の問題は,医療本来のあり方,ひいては医療技術の本質の問題をぬきには考えられない性格をもっている。ところが今日の医療過誤の対応のしかたをみると,この面がきわめて稀薄なのが目立っている。たとえば,医療過誤→医事紛争にしても,これをどう円満におさめるかということに重点があり,また裁判にならないようにするには,医療上,あらかじめどのように注意すべきかといったとりあげ方に終始する傾向が強い。まるで裁判にならないための医療が医療の本道ともなりかねない傾向である。これでは医療本来の目的に反する医療過誤をどう防ぐのかといった最も重要な課題がみうしなわれざるをえない。
Copyright © 1969, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.