なでしこのうた
下呂の炭焼の娘さん
塩沢 美代子
pp.141
発行日 1970年9月1日
Published Date 1970/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661915033
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東京のAさんは,飛騨の山深い町に住むKさんからの結婚式の招待状を受けとって面くらった。仲間が主催して祝うそのかたちはもう珍らしくなかったが,その夜を彼とともにあなたと語りあかし,翌日から旅行に出たいので新居に泊りがけで来てほしいというのだ。その気持はわかるが彼とは初対面だし,まさか新婚の夜にわりこむのは,決して常識家ではないAさんにもためらわれた。すると今度は彼から手紙がきて,あなたのことはよくきいていて自分もお話したいし,彼女も喜ぶからぜひぜひという。ついにAさんはそれに応じた。よぶほうもよぶほうだが行くほうも行くほうだと,ほかの友人にからかわれながら……。
結婚式の夜をともに過そうというKさんはAさんと日常的にそう往来はない。会うのはよくて年1回くらい,その上お互いに筆不精だ。根っからの都会人でインテリ家庭の出身のAさんは,下呂の山奥に炭焼きの娘として生まれたKさんとどこからどこまで対照的な境遇だったが,10数年前の出会いをお互いにこよなく喜んでいる。そしてこの二人をめぐりあわせたのは,日本ラインの川遊びで知られるM市の製糸工場の労働組合であった。Aさんはかつてその組合本部のオルグであり,Kさんは職場活動家である。
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