グラビア
とかく女は…—愛
堀 秀彦
pp.118-119
発行日 1970年5月1日
Published Date 1970/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661914888
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この三月の十日で、私はとうとう六十八才になってしまった。年とってしまったものだ。ペンをもつ手の甲いっぱいの小皺をながめながら、私は老年ということをあらためて考える。いや、老年といったのでは、ほんとうじゃない。老年ではなくして、私の終りの日のことだ。「私の死」のことだ。
だが、こんな風に私が私じしんの死のことばかりをあけくれ考えているかぎり、私はなにひとつ愛することができない。じじつまた、私はいま自分の生活のなかのどこにも燃えるような、私のこころを吸いとってしまうような愛の対象を思いだすことができない。そのためか、私のこころは日増しによどんでいくような気がする。なんとも情ないことだ。
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