東西南北
奉仕
丸元 淑生
1
,
松本 勝太郎
2
,
福西 英三
3
,
春野 鶴子
4
1「週刊女性」編集
2そごうデパート
3全日本バーテンダー協会
4主婦連合会
pp.13
発行日 1969年3月1日
Published Date 1969/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661914391
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私の子どもの頃には勤労奉仕というのがあった。冬の朝まだ暗いうちに起きて通りの清掃をしたときのことを思い出す。かじかんだ手にはあはあ白い息を吐きかけながら,小さな子どもたちが暗い通りのあちこちから集まってくるのだ。掃除が終わって家に帰ると朝ごはんが待っていた。そんなときの,なにかいいことをしたという満足感を失ってもうずいぶんになるような気がする。いまの私の生活の中には奉仕の部分がまったくない。毎日の仕事はかなりの激務で満足に休みさえとれない状態だが,私はそれにふさわしいだけの報酬を得ている。報酬がなければ手一つ動かすことさえしない世の中だ。私は,編集者は読者に奉仕する者だなどと,偽善者じみたもののいい方はしたくない。良心的に仕事をすることと奉仕とは違う。奉仕が尊いのは,それが報われることを期待しない行為だからではないか。生活の中から,その尊い部分を失くしている自分が悲しい。
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