発行日 1949年7月1日
Published Date 1949/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541210133
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日本には君に仕え,國に仕えると云り言葉は昔からあるが,他の人々に奉仕すると云う言葉はなく,これは新しい觀念の表現の様である。商人が奉仕すると云えば,おまけをするとか,安く物を賣ることを意味するが,病院の奉仕とは,單に施療や軽費診療をすることではない。人道主義に基いて,人を愛し親しみ,そのために役に立ちたいという気持ちに動かされ,己れの勞をいとわず,親切を盡くすことである。もともと奉仕という言葉は,キリスト教信徒の言葉であって,神に仕えることである。どんな目立たない善行をしても,どんなつまらないあわれな人のために親切をしても,それか神を喜ばすことであり,神の業を顯わすことになり,神に奉仕する一端となる。斯くて人に奉仕すると云う言葉が出た。
他人に對して働きかける職業で,他人に益を全く輿えない仕事はあり得ないが,職業のうちには利益を交換することを主とする商業の如きものがある一方,人を助け,人のためを圖ることを主眼とし,報酬を得ることは第二義とする職業もある。人の病苦を去り,生命を救い,健康の幸を齎す働きをする醫業は奉仕を主とし,報酬を得ることを第二義とすることを醫師倫理では強調している。醫業を組織だった機關として實行する病院も亦同様の倫理原則を守るのである。
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