歴史の女性
市川房枝
福地 重孝
1
1和洋女子大
pp.104-105
発行日 1966年2月1日
Published Date 1966/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912647
- 有料閲覧
- 文献概要
やり抜いた理想選挙
去年7月におこなわれた参議院の選挙で,市川房枝は49万6795票を得票して,3度当選の栄冠をかちとった。この選挙のとき「参議院の良識の火種を絶やすな」という相言葉が,口から口に伝わったのであった。政党化する参議院にあって,市川は無所属の革新系である。彼女は「私を当選させて下さい」とはいわない。「私の12年の議員生活を見て,審判して下さい」という。そして,選挙には莫大な金が流れ,違反汚職すれすれの線をゆく多くの候補者をしりめに,「出たい人より出したい人を探し出して立候補をたのみ,小使銭を持ちより,手弁当で推し出す」いわゆる「理想選挙」を一枚看板にして選挙を斗い抜いたのだから,彼女の存在は我が国議会政治史上の奇蹟的な貴重な存在なのである。
理想選挙や公明選挙を口にするのはやさしい。ところが彼女はそれを堂々「実行」しているのである。費用は推薦の人々が寄付で支弁し,本人は車代などを出すだけらしい。だから昭和28年4月の彼女の選挙費用は法定費用の1割,第2回の昭和34年6月の選挙では,法定の約2割ですみ,今度の選挙では法定費用630万円の約2割,128万円で当選という「ウソのような本当の話」が彼女によって実践されたのである。政治腐敗の最大原因は選挙に金を使いすぎるからだというのが彼女の信念である。
Copyright © 1966, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.