表情研究
眼の表情
淸洲 すみ子
pp.88-90
発行日 1953年11月15日
Published Date 1953/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912502
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朝おきた時「目がさめた」という。欺されたことがわかつた時にも「目がさめた」という。パッチリ眼をあける人もあるが,眠い眼をこすりこすり,のろのろあける人もある。肉体的なものと心理的なものとを眼の表情はいろいろに表現することができる。眼の表情は無意識に変るし,意識的に変えることもできる。
3,4年程前に妻に死別した或る中年の作家が,その後短い間に2,3度彼の意志で結婚し離婚したが,その離婚の理由はその妻達の獻身的な一生懸命さには見向きもせず,体が大きすぎるとか,ガサツだとかの理由でその妻達を住みにくくさせ,結果はその家から追い出すはめに落し入れてしまつたということを友人から聞き,私ははげしい憤りを感じたが,つい最近にその作家を眼の前にみて私は友人の言葉の裏づけを発見した。それは瞼の不自然な早いまばたきを,数回断続的にくり返す眼の表現からだつた。彼は狡猾な魂を見破られまいと意識的に無意識さを裝い,自分は気が弱くやさしい人間ですと他人に思い込ませたいという矛盾をつゝみかくすその仂きがかえつて狡猾さを表現してしまつた結果になつた。
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