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心理検査法のはなし
片口 安史
1,2,3
1国立精神衛生研究所
2東京大学
3立教大学
pp.64-67
発行日 1963年8月1日
Published Date 1963/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911999
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はじめに
従来,医療の分野において心理検査法に関心をもっていたのは,たかだか一部の精神科医ぐらいのものであったろう。ところが最近は,精神・神経科はもとよりのこと,小児科や内科,そしてときには産婦人科や皮膚科にまで,心理検査法が利用されていることがある。昭和34年に出版された「精神医学臨床検査法」(井村恒郎他編)をみると全ページの4分の1を心理検査法の解説が占めており,その進出ぶりにはめざましいものがある。いずれは,一般の臨床医学検査法の手引きの中にも心理検査法の簡単な紹介ぐらいは掲載されるようになるかもしれない。
さて,このような状況を,たんに心理テスト・ブームといった説明でかたづけることはできない。わたしはむしろ,医学そのものが,ある体質改善をなしつつあることの一つの現われが,心理検査法への関心の増大という形をとっているように見えてならない。たしかに,身体医学の発展とそれの人類への貢献はまことにめざましい。しかし一方,あまりに細分化され専門化された現代医学体系は,ともすれば病んでいる人間全体の問題を,どこかに置き忘れてしまう危険をはらんでいるともいえる。精神身体医学や全体医学の提唱者たちが,このような危険を指摘し,その対策を強調しているのも,もっともなことと思われるのである。病んでいるのは,特定の身体器管のみではなく,病んだ器管や組織・細胞を所有して苦しんでいる患者そのものなのだ。
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