クリニックからの発言
遺伝のはなし
浦田 卓
pp.96
発行日 1967年2月1日
Published Date 1967/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661913051
- 有料閲覧
- 文献概要
「今世紀に人類史上画期的な発見が二つ行なわれた,その一つは原子エネルギーの開発で,もう一つは遺伝子の発見である」とは,かの有名な生化学者アシモフ博士の言葉です。原子エネルギーの開発が原・水爆や原子力発電につらなり,その影響するところがいかに甚大であるかは,その方面の素人である私たちも新聞や雑誌の解説記事で先刻承知です。しかし,遺伝子の発見がどれだけ深刻な波紋を各方面に投げかけるかについては,ほとんどの人が気づいていないような気がします。つぎに,この点について2,3の示唆をしてみたいと思います。
現在,地球の半分を占める共産圏の人びとを支配しているイデオロギーは,いうまでもなく共産主義のそれです。この共産主義の基礎にひそむ考え方はなにかといいますと,それは遺伝子というものは実在していない,ブルジョアジーの観念論の生んだ架空産物であるというにあります。これをべつの表現をすると,人間の性質は,環境次第でどうにでも変えることができるものである。という考え方になります。これを遺伝学の言葉でいい表わすと獲得形質は遺伝するという説です。この説によりますと,親が教育をうけて徳を養なえば,生まれた子どもは頭がよくなり,その行ないもリッパになるということになります。もし,事実そのとおりであれば,人類の資質は,その環境さえ改善してやると,毎世代より優れたものになり,ついにはこの地球上に理想郷が出現するはずです。
Copyright © 1967, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.