生活と意見
患者の方言
酒匂 寛子
1
1鹿児島大学付属病院
pp.70
発行日 1962年12月1日
Published Date 1962/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911808
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就職の第一歩は遠い北九州であった。定床700,准看護学校の付属した木造老朽の国立療養所だった。とにかく「行こう」と決心のついた時あるX線技師から「ピンクになって帰って来るぞ」と冗談まじりに忠告されたことを覚えている。しかしそのことばの裏に何かしらありそうで…… 進歩的な気流を期待したのはやはり未知な者ゆえの錯覚だったろうか。事実,以前所内はあらゆる面に活発だったらしい。このようなわけで同期生4人身心ともに張り切っで就職したのでした。
でも何とも穏かな療養所だったのです。玄関につづくいちょうの並木はまだ坊主頭ではあったけれど,青い若葉や秋の銀葉の頃を想像するに十分であった。またいっしょに流れるその黒土は,しっとりり堀り立ての艶があった。加えて総婦長のゆったりと円満な体型が安堵の念を盛りたててくれた。このような平凡な感覚がすばらしい第一印象となっていたのです。
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