生活と意見
ユーモリスト
柿木 ノリ子
1
1東京警察病院高等看護学院
pp.71
発行日 1962年12月1日
Published Date 1962/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911809
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過去数年間,結核療養所に過ごしたせいか,周囲のユーモアのうまい人をいつでも,しらずしらずのうちに尊敬の的にしてしまう。粗暴な患者たちとの会話でちょっとしたことばの端くれに因縁をつけて看護者のあげ足を取ろうとする患者……治療上の注意を必要あってしたものを「生産気」「若いくせに」と理屈に合わない文句をつけてきて困ってしまった苦々しい経験が,私自身何度かあり,また同僚たちのも見た。だがユーモアを解し,またそれを身だしなみのようにすらすらと口にできる人たちはこんなつまらない経験はあまりしていないようである。地方なら地方で適当に方言を混じえて患者の神経にあたらずさわらず,それでいてしっかりした楔を打ちつけるのだから,こんなにすばらしい業はない。
私の知っている人にこんな人がいる。同僚間では楽天家だとかお嫁さんをもらいたいとか,そういった朗らかな人柄を見せてはいるが,患者の前では恐いナースであり,信頼できるナースであり,そして話しやすく楽しくなるナースということである。彼女の患者たちへの注意の仕方は,まず笑顔を忘れない。そこらの床頭上の配置をほめたり,また布団の柄などを珍妙なユーモアを混じえながらしゃべるのである。そして後には,じわりじわりと目的の核心にふれてゆくのである。
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