講座 乳癌と子宮癌
乳癌のはなし
松浦 潔
1,2
1東大木本外科
2三井厚生病院外科
pp.33-37
発行日 1959年9月15日
Published Date 1959/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910922
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乳腺疾患のうちで最も重要な疾患が乳癌であつて,稀には男子にも見られるが,子宮癌と共に女子の癌として大きな部分を占めている。いうまでもなく乳癌も悪性の腫瘍であつて,化学療法の確立されていない現在では,乳癌の治療方針は早期発見と早期根治手術にあることは,他の多くの癌と同じであるが,乳腺が体表から容易に触れ得る表在性臓器であること,出産や授乳というホルモンの影響が関係すること,又,前癌病変として乳腺症が関係あること等のように,同じ癌でありながら乳癌の発見や治療にはかなりの特徴をもつているのである。
乳癌の発生状況をみると,欧米では子宮癌と並んで女子の癌では胃癌よりも遙かに多い。ニユーヨークでは女子25人中1人は乳癌で死亡するといわれる。しかし日本では乳癌は欧米に比して非常に少く,200人に1人の割合で死亡するに過ぎない。又,女子の癌のうちで,胃癌,子宮癌,胆道及び肝臓の癌についで第4位である(第1表)。この様な著しい差異のおこる原因は,人種の違いや環境の違いも考えられるが,後に述べる様な,出産や授乳等ホルモン代謝に関係ある色々な条件がかなり考慮されねばならない。我が国においても,明治の終り頃は女子人口10万人に対しての乳癌死亡率は1.8であつたものが,昭和25年頃には3.3と増加し,今なお増加の傾向を示している。同じ様に増加の傾向を示して問題になつている肺癌よりも増加率は高いといわれている(第2表)。
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