- 文献概要
本年は皇太子御成婚の年です。裏がえして言えば正田美智子さんが皇太子妃になる年です。昨年は,皇太子妃の決定をめぐつて,ジヤーナリズムがいつせいに正田美智子ブームを作り出した年でした。正式発表までは,スクープをしないという申し合わせをして,抜けがけの功名をきそいがちなジヤーナリズムがそれを確実に守つたということは,まことに異例のことに属すると言えるでしよう。この問題をめぐつては小泉信三博士の各社歴訪の誠意が大きな役割を果したと言われています。そして,その急所は,皇太子妃となるべき正田美智子さんの人権を尊重しようということにあつたようです。その限りでは結構なことです。ひそかに,ニユースが伝わつても,あとを追いかけまわして,外出はおろか,庭先にも出られないというようなことはどうも感心したことではないからです。ジヤーナリズムが人間をスポイルすることの破壊力の大きさは大きいからです。
ジヤーナリズムは,しかしながら,今度の場合には,良識を持つて啓蒙的な役割を果したということができましよう。一般庶民から将来の国母陛下が出るということは,たしかに画期的なことがらです。そして,そのことをめぐつて,ずい分と妨害や,批判のようなものがあつたことは事実でしよう。そのことをおそれる知識人もありました。しかし,ひとたび発表されてみると,世論は比較的健康に,明朗に,この挙を支持していたようです。
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