扉
心にうつる三つの虹
pp.13
発行日 1958年3月15日
Published Date 1958/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910549
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その一つは,1939年のことでありますから今からもう39年前,大たいひと昔前のことになります。カナダに留学中のことでした。或る多の日曜日,一緒に勉強していたスエーデンやデンマーク,フインランドの友達と程近いところにあるナイヤガラの瀑布を見物にいつた時にみた虹です。世界一を誇るナイアガラのそれも風光としは最も高く評価されるカナダ側の瀑布を,その時初めてみたのでした。日本の華巖の滝や,那智の滝などとは全然おもむきを異にした雄大な滝の姿を水しぶきであたりはかすむ程になつているところに,堂々とおちるひびきをお腹の底に感じながらただ芒然とながめていた時,フト眼についた滝の上方にかかつていた虹でした。アツ虹だ!といつてなつかしく見上げている眼に更に滝つぼ近くもう一つの虹がかかつているのがみえて,限を上に移したり,下にまわしたり感激に胸をふくらませ乍らみつめていたのでした。何故といつて,この虹は日本を去つて留学中,最初にみた虹であつたからです。同じだなあと思つたら急に日本がなつかしくてたまらなくなりました。
二つ目の忘れられない虹は,これもやはり外国ハワイのホノルルでみたものでした。終戦後の昭和23年,まだ相互にけわしい感情ののこつている頃に,再びアメリカに留学した年の帰り途,ホノルルに船が寄港した時,同行4人は,ホノルルにいる私の友人につれられて,一日見物をした時です。
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