扉
幼な児のごとくならずば
pp.5
発行日 1957年12月15日
Published Date 1957/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910490
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一つの目的を果しての帰りの汽車の中は私の最も好きな,たのしい時の一つであります。最近そのたのしい帰り旅の車中であつた出来事から,いろいろ現在の社会問題を考えさせられたことについて書いてみましよう。
乗り合わせた客は,30にならない若い近代的な母親と,1年半位の坊やでした。昼寝からさめたばかりの坊やが,お母さんの肩越しに私をみているのを,一寸あやしたらニコツと笑つて,くり色によく日焼けしたクリクリと肥つた如何にも健康そうな可愛い坊やで,私は雑誌をみていたのですがすぐ坊やの方に眼がいつて,「いないいないばら」をしたりして遊んでいましだ。坊やが声をあげて笑つた時にフト気がつくと,一つ斜め後の席に外国人の若い母親と金髪の嬢やがいて坊やの声と一緒に,この嬢やが席の上に立吟てこちを向いて青い眼をクルクルさせていました。少し年も大きく3歳位でしようか。坊やが靴をはいて座席のまわりをヨチヨチと歩きはじめた頃,金髪の嬢やも靴をはいて立つてこつちをみて来たそうにしていましたが,そのうち,母親に片手をつかまれるから自分はこちらに進んで来て,坊やのそばにやつて来て,互いに交る交るそつと手をのばして相手の手にふれ合つたりしていましたが,坊やがこつちに来ると同時に母親の手をふり切つて嬢やもやつて来ました。私の横の席に嬢やをかけさせましたらすぐ坊やもその隣にかけたがつて,私は小さい友達を横にして,坊やの絵本を2人でみていました。
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