ナースの作文
試験/私の恩師
加畑 節子
1
1福井県立高等看護学院
pp.66-67
発行日 1957年5月15日
Published Date 1957/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910361
- 有料閲覧
- 文献概要
1日の実習を了えて“ああ疲れた”といつもなら更衣もそこそこに足を投げ出す所なのに,試験とあつてはそれどころじやない。おしやべりの彼女も,食いしん坊の彼女も,本に読みふける彼女も,編み物犯の彼女も,それはさて置き勉強勉強で直に机に向う。ペンを走らす音とページをめくる音以外には全く静かで普段とは,別人に化してしまうのを見ると,試験と云う力の大きさに驚かざるを得ない。こうして始ると10時の消灯までどんなに勉強が出来るだろうなあ,と思いの外,ある程度やれば集中力不可能となるのか,正味は3時間,後は試験ならでは味わえぬ楽しいとも,面白いともつかぬ時間に費やされてしまう。先ず,誰れかが1人隣りに話しかけたら最後たちまち6人がおしやべりを始める。今度の日曜はどうとか,早く試験が終つてあれがしたいとか試験の時になると話題の豊富なのが妙である。食いしん坊の彼女はこれを幸いに早速,糖分補給の理由で間食を提案する。尤も適当なエネルギー補給と休息は,能率を上げる為に必要な条件だとは,皆も心得ているからすぐに意見がまとまり私は甘納豆,ドロツプ,文化豆,とそれぞれ好みに応じて注文する。買いに行く人はと,前から当番がきめられているのだから心配するには及ばない。本の活字も上の空当番の帰りが気になつて,待つている事20分。ようやく自分の手に渡ると満足そうな顔でがりがりやり出す。菓袋をなぶる独特の音でにぎわい,これでは食べる事が主かなあと疑いたくなる。
Copyright © 1957, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.