講座
消毒の話
豊川 行平
1
1東大
pp.23-27
発行日 1957年2月15日
Published Date 1957/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910280
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専門用語のなかでも消毒という言葉ほどあいまいに使われているものは少い。街ではDDTで消毒したという会話さえ聞くことがある。これなどは極端な例であるが,その道の専門家でさえ滅菌というべきところを消毒といつたりすることはしばしばである。いうまでもなく,滅菌(sterilization)というのは生きとし生けるもの凡てを殺し,いわゆる無生物の状態にすることであるが,消毒(disinfection)は病原体を対象として,その生活力を破壊することである。この場合非病原性の微生物がたとえ生きていてもかまわない。というのは伝染病を予防するにはそれで充分なわけだからである。
消毒と似て非なるものに防腐(antisepsis)というのがあるが,これは物品に予め処置を加えて微生物が侵入してきても,それを殺すとかその発育を阻止することにより,食物の腐敗分野を防いだり,伝染病の発生を未然に防止したりすることをいうのである。消毒薬といわれているものは凡て防腐作用を持つているが,逆に防腐薬は必ずしも消毒力を持つとは限らないことを忘れてはならない。
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