教養講座
くらしと花3
北条 明直
pp.41-44
発行日 1956年7月15日
Published Date 1956/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910146
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今回は前衞いけばなについてお話しましよう。前衞というのは,本来社会運動に用いられた言葉ですが,その後一般に革命的意図をもつものに冠せられる名称となりました。(1)前衞いけばなといえば一口に,従来の床の間式,或は単なる室内装飾的いけばなに対する,革命,或は叛逆のいけばなだといえます。では一体どんな革命や叛逆が試みられたでしようか。
その一つは,これまでのいけばなには花型というものがあつて,これに則つて花をいけるのを原則としていました。いけばなの入門には,先ず第一に真,副,体とか,主,副,客位とかいう役抜の名称をおぼえ,この技はその何であつて,それをどこにどう挿すというふうに教えられるのが通常ですが,これは予めでき上りの形がきまつているからです。これに対して前衞いけばなは,そうした従来の型に捉われない,全く自由なものを生み出そうとしたのです。もう一つは,これまでのいけばなには,何をいけるかという主題(テーマ)がなかつたのです。型がほゞきまつているのですから,いかにその型が巧みに表現されるかに重点があり,作者が何を表現しようとしたものかということは問題になりませんでした。これに対し前衞いけばなは,何でもいけられるという形の自由を叫ぶとともに,作者が何を表現したかという主題が追求されるようになつたのです。
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