特集 ナースに必要な社会保険の知識
健康保険の話
守屋 博
1
1国立東京第一病院管理部
pp.24-29
発行日 1955年4月15日
Published Date 1955/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909787
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親の病気を癒すための人蔘を手に入れたいばっかりに,苦界に身を売る娘の話を,芝居で見た事があるでしよう。医療の為には,凡てのものをなげうつのが人情です。しかし充分な医療費は,庶民の生活から見てはるかに高価な事は,徳川時代も今も変りはありません。現在の医療は,抗生物質の発見や手術の進歩で適確に,病気を療す事が出来るようになつたのと同時に,必要な医療費を5倍にも10倍にも増したのです。従来の結核治療は大気安静で家庭でも出来たでしよう。今は,早期のものはパスやマイシンで適確に治る事が出来ると同時に,月2万円を必要とします。肺葉切除となれば3-4万円を用意せねばならないでしよう。もしこれだけの金を払える人だけが,この医療を受けられるとしたらどうでしよう。それだけの貯金をしている人は,国民の一割もないにちがいありません。この様な治療法を知らぬ間はとも角,適確に療し得る方法を目の前に見ながら,金がない為に,見送らねばならぬとすれば,人世最大の悲劇にちがいありません。どうすれば凡ての国民に最善の医療を与えうる事が出来るか。直接,国営の病院をつくつて,凡ての患者を無料で治療する方法もあります。又現在医師に払つている費用を,凡て,国民費で払つてもらつてもよいでしよう。英国の国営医療は,この様な形です。しかしその為には,大変な国費が必要なので税金の何割かを廻さねばなりません。
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