名詩鑑賞
くちづけ—薄田泣菫
長谷川 泉
pp.38-39
発行日 1951年10月15日
Published Date 1951/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906945
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島崎藤村や土井晩翠の築きあげた時代は,近代詩壇の上では輝かしいものであつたが,それに次ぐ時代を現出したのが薄田泣菫である。泣菫時代ということが言われているくらいである。上田敏が批評している言葉に「語彙の豐富にして,殊に中古軍記類に散見したる語を驅使することの巧なるは,詩壇第一人なるのみか,西歐詩文の造詣も頗る深きが如し」というのがあるが,泣菫の詩風の特徴は,その特異な表現にあつた。そしてまたその詩想を觸發される對象は現實のありのまゝの實人生であるよりは,むしろ史話や傳説を支えとしたものが多かつた。そこに泣菫獨自の古典的,浪曼的な雰圍氣がかもし出されるのであつた。彼の詩は處女詩集「暮笛集」から「白羊宮」にいたつて完成されたのであるが,その詩風はこの二つの詩集におさめられた詩の一節を抽出してみればすぐわかるであろう。
「暮笛集」から「鬢の毛」という詩をぬいてみる。
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