2頁の知識
瘙痒
谷奧 喜平
1
1東大
pp.26-27
発行日 1951年8月15日
Published Date 1951/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906907
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瘙痒とは「皮膚の一種の感覺であつて,且つそれには必ず掻爬するという必要が起る」と定義されている。皮膚科領域に於ては濕疹を初めとして,疥癬,蕁麻疹,白癬痒疹等多數の痒い皮膚病があり,また内科的の疾患並に婦人科的疾患例えば黄疸,糖尿病,子宮疾患,卵巣疾患,更年期,月經時に於ても皮膚に何等見た眼に變化がなくて瘙痒のくることが尠くない。これを我々皮膚科醫は皮膚瘙痒症といつている。他方患者は痛みを我慢するよりも,痒みを我慢する方が遙かに苦しいとしばしば訴えを聞く。瘙痒は患者にとつて相當の苦痛であることはあきらかである。しからばこの瘙痒の本態は何んであるかというと,色々の説が唱えられているが,一般には瘙痒は痛覺の一種で,微細な刺戟が瘙痒となり,強ければ疼痛と感じるといわれ,その例としてはノボカイン浸潤麻痺の際に疼痛の有無を検して痛覺は全くなくなつて觸覺が猶存在する内には瘙痒は起らない。また癩および脊髓空洞症の患者に就て無痛の皮膚の部分には痒感がなく,また觸覺が完全に有つても無痛の部分には瘙痒がない。しかし疼痛と瘙痒とは同じものではない。すなわち痛覺は安靜として刺戟を避けることにより減退するが,痒感は逆に掻爬を加えることにより一時的にしろ減退をみる。温熱についても同樣のことがいわれ,痛覺に對してはこれを輕減するが,痒感に對しては無效でかえつて増惡するのが普通である。
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