ルボルタージユ・5
運營の妙に期待—松本保建所の卷
pp.25-27
発行日 1949年11月15日
Published Date 1949/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906560
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
中央線松本驛から約15分,畠の中にポツンと殘つている松本城は,今その城内の血氣盛な青少年の野球場になつている。僅かに往時の榮をしのぶお堀のまわりを廻つて裏側に出ると,物靜かな通りに出るが,其の通りに面して縣立松本保健所がある。うつかりすると見落しそうな平屋造り,低い屋根の小さな入口に自轉車がゴテゴテと並べてある玄關入口には縣立松本保健所の看板と,反對側に「性病撲滅週間」の大きな看板が立つていた。
案内も乞わずに黙つて入る。受付,會計と2枚の札のさがつている小さな窓からのぞくと4人の男の人が話合つていてこちらを向いてみたが,聲もかけない。廊下を忙しそうな人々が往き來するが誰もこの闖入者の存在を認めない。其の時たつた1人男の人が通りすがりに姿をみつけて「どうぞおあがり下さい」と言つて下さつた。誰だろう?所長さんらしいなと直感で來た。次に保健婦さんらしい若い女の人が通つたので,「もしもし」と聲をかけやつと話が通じて取り揃えて下さつたま新しい草履を感謝し乍ら所長室に入る。おめにかゝつた所長さんは,先刻の直感がピタリと當つて,細面の物靜かな態度の中に一家のあるじらしい風貌が備えられていた。
Copyright © 1949, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.