発行日 1949年10月15日
Published Date 1949/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906536
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あの人には教養があるとか,この人は學問はあるけれど教養がないとか,こういう言葉をよくききますが,教養というのはどういうことなのでしようか。教養があつて困るというのは例外の場合で,大ていは教養がある方が,ないのより良いということは世界中どこでも通用しているようですね。ところが,教養について書いた本や論文をたくさん調べてみましたが,どれも書いてあることがらよりも,その書きかた,つまり形式が難かしくて,わたくし達庶民は,なかみそのものを理解したいのに,形式の硬さ,ややこしさを解きほぐすのに疲れはててしまうことが多いのです。それでこゝでは,昔のえらい人や,今の有名な學者が書いた難かしい言葉を引きあいに出して大衆をおどかすというようなことは一さいやめにして,わたくし達がふだん使いなれ,聞きなれている氣取らないふつうの言葉で,教養ということを色々の角度から,やさしくしかもはつきりと考えてみましよう。たゞし,この短かい紙數で教養の全部についてあます所なく論じることはとてもできませんから,このたびは教養とはどんなものかという點に重きをおくことに,まず範圍をかぎることにします。
はじめに,解りきつたことながら,教養というのは,人間に關するものであります。犬や猫はもちろん,象や猿のような悧口な動物でも,それがどんなに知能や洞察力があつても,教養があるとかないとか言わないでしよう。
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