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—和田努著—カルテは誰のものか—患者の権利と生命の尊厳
磯野 富美子
1
1東京大学健康社会学教室
pp.290-291
発行日 1998年3月1日
Published Date 1998/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661905556
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この問いにあなたはどう答えるだろうか
本書の標題「カルテは誰のものか」という問いに,あなたはどう答えるだろうか.言うまでもなくカルテは診療記録であり,看護婦にとっては日常的に見慣れたものである.所有権についてなど,考えたことがない人も多いのではないだろうか.カルテは病院・診療所で保管されており,その現状からみると病院・診療所の所有のようにも思える.しかしそこに記録された内容からみると患者のものである,と考えるのが妥当である.本書は副題の「患者の権利と生命の尊厳」からもうかがえるように,患者の権利を確立し,よりよい医療が提供されるような状況を生み出すにはどうしたらよいのか,日本の医療改革の処方箋となることを目指して書かれている.その象徴となるのがカルテなのである.
本文は,序章から終章までの8章で構成されている.序章は,医療先進国であるアメリカの「患者の権利章典」の紹介で始まる.患者の権利の確立は,医師のパターナリズムを否定し,「お任せ医療から患者主体の医療」への転換を意味する.そして,今日あたりまえのように口にきれるインフォームドコンセントも,そこから生まれてきたものである.病院の外来の状況や,著者が経験した診療所での例が紹介されている.さらに,以前から問題視されている説明不足,長い待ち時間,医療者の不親切な態度は,まったく改善されていない,との指摘もある.
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