連載 買いたい新書
医療現場に臨む哲学—清水哲郎
高橋 幸枝
1
1東京大学大学院医学系研究科・健康社会学
pp.98-99
発行日 1998年1月1日
Published Date 1998/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661905517
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現場で,当事者と対話し共に考えることがすべての始まり
今やターミナルケア・緩和ケアの領域にとどまらず,患者・対象者のQOLの向上・保持に寄与することが医療・看護や保健福祉の役割であるという内容の論文・著書は多数を占め,その重要性については関係者間のコンセンサスが得られつつあると言っても過言ではない.にもかかわらずズレがある.人によって少しずつとらえ方が違っている.どこか,食い違いがあるのは確かであると言わざるを得ないのが現状だ.
先日ある集まりの場で,患者の立場にある参加者の1人が「専門家や実践家の人たちのいうQOLというのは,どうも胡散臭い.患者に治療方法などを説明したり説得するときに,患者のためといいつつ,結局は専門家の立場からみての利益や責任回避のために,使われているようなイメージがある.だから私はQOLという言葉には悪いイメージを持っている.それで,QOLには抵抗がある.」という意味のことを,半ば怒りを込めて発言したのを私は聞いた.QOLとは本来そういう意味ではないにもかかわらず,患者・対象者によってはすでにマユツバのように受け止めている人もいるのである.いや,受け止めざるを得ない現実が患者・対象者の中には存在しているということなのである.関係者間・医療者—患者間,このボタンのかけ違い状態に対する策や有用な考え方はあるのだろうか.ちょうどそんな時に本書に出会った.
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