連載 カラーグラフ
JJN Gallery・1【新連載】
『病ある少女と脈を診る医者』—ヤン・ステーン
酒井 シヅ
1
1順天堂大学医学部医史学
pp.6-7
発行日 1996年1月1日
Published Date 1996/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661904977
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熱のためであろうか,少女の頬は赤味を帯び,目はうるんで,いかにもだるそうに枕に頭をのせている.おおまじめに脈を診ている医者とのコントラストがおもしろい.古びたコートを着た医者はとても流行医に見えないが,やさしそうだ.「どうかね」とたずねる声が聞こえてきそうである.この時代の中流以上の家庭では,外科以外は往診で治療を受けるのが主流であった.病院は修道院に付設した施療院か,避病院だけしかなく,入院するのは貧困な人か伝染病患者であった.それだけに退院することはまれで,病院が人生の最後の場所になったのである.
ところで,この時代のオランダやイギリスの往診や診察の場面を描いた絵では,病人が医師の前で衣服を税ぎ,診察を受けている場面は見たことがない.患者と医者が向き合い,せいぜい容体を聞くか,脈を診るか,視尿瓶(フラスコ型をしたガラス瓶:尿の色と混濁を見るための道具)で尿を検査する場面だけである.現在のような診察法になるのは19世紀になってからである.
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