連載 驚きの「介護民俗学」・6
老人ホームで出会った「忘れられた日本人」
六車 由実
pp.82-87
発行日 2010年9月1日
Published Date 2010/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661101691
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「忘れられた日本人」
本連載の第一回目に、山本一夫さんからお聞きした馬喰の話を載せたが、何人かの知人から、「宮本常一の『忘れられた日本人』のことを思い出しました」という感想をいただいた。いうまでもなく宮本常一は、戦前から戦後にかけて日本列島をくまなく歩き、その地域に生きる人々の暮らしに正面から目を向けた民俗学者で、『忘れられた日本人』(1960年刊)は民俗学の枠組みを超えて優れた文学作品としても多くの人々に読まれた代表的な著書である。そのなかに、高知で馬喰をしていた老人に聞き書きをした「土佐源氏」という文章があり、みなさん馬喰という言葉でこの文章を思い出したというわけである。
そのような感想が私には少し意外に思えた。たしかに「土佐源氏」は魅力的な文章ではあるが、馬喰という言葉が即「土佐源氏」を想起させてしまうのは、宮本常一以降、馬喰についての調査研究があまりされてこなかったからではないか、と思えたのである。
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