連載 カズのもっとカンボジア日記・13
人生の山越え
崎間 和美
1
1アンコール小児病院
pp.942-943
発行日 2003年9月1日
Published Date 2003/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661100791
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ここ最近,ちょっとカンボジアが嫌いになっていました.何もかも.本当に何もかもに腹が立ったんです.お店で支払いをするとき並ばないといっては「ちゃんと並んでよ!」と発狂し,朝4時から法事の音楽で目が覚めては「うるせーなぁ.人の迷惑考えろよー」と怒り….以前は“おもしろい!!”と思ったことが神経を逆なでするようになって,毎日,重箱の隅をつつくように,ブーブーと文句をたれていました.あげくの果てには,“私,どうしてこんなとこにいるのよ?”とまで思うようになり,柄にもなく生意気に,人生への絶望感まで感じたりして….
◆子どもたちのサバイバル
そんなある日,いつものように心のなかでブーブー文句をたれながらオートバイで家へ帰る途中,足も届かないような大きな自転車に乗った小さな男の子を見かけました.荷台にはこぼれ落ちそうになるほどの野菜が入った大きなカゴがくくりつけ,“よいしょ,よいしょ”と運んでいるのです.バランスを取るのもたいへんそう.男の子は12歳くらいかな.表情は真剣そのもの.その何かと戦っているような表情からは,家族の生活を支えている責任感と迫力を感じました.日本ならせいぜいお母さんに頼まれてイヤイヤおつかいをしている年齢だよなあ.
その男の子を見たとき,何かがするするっと胸のなかに入ってきた気がしました.そして,“そうだよ! これ,これ! これだからカンボジアが好きなんだ”と,思わずうんうんと1人でうなずいてしまいました.暗闇のなかから急に扉が開いて光が差し込んできたような感覚.
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