- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
寝たままの患者の身体をベッドの上方にずり上げたり,体位変換のために横にずらすのは日常的によく見られる看護行為であり,そのために多くの研究1)がなされている.このような患者ずらし動作は,それを行なう看護師の労力負担が大きい.体位変換は本来ならば2名の看護師で行なうことが望ましいが,実際の臨床場面では常時多忙をきわめ,特に夜間は職員が少ないため,やむをえず,1人のがんばりで間に合わせてしまうことが多い.その結果,無理をして腰痛に悩まされる看護師も少なくない.
作業労力の軽減のために,スライディングシートなどの便利な体位変換介助物品も市販されてはいるが,高価なため必要数を購入してもらうことは難しい.実際には,少数の体位変換介助物品を何人もの患者に次々と使いまわすことになり,よって時々洗濯をする余裕がなく,結果として不潔になりやすく感染の心配もある.また,大きなスライディングシートを,保管場所までわざわざ取りに行って病室まで運んでくることも煩雑である.そのためついついその使用を諦め,結局「がんばり」で処理するケースも多い.
また,こうして大きな力を加えた「ずらし動作」は,ベッドのシーツと患者の着衣との「ずれ」にとどまらず,患者の皮膚と深部組織の間にまで「ずれ力」(上層組織と下層組織を横ずれによって引きちぎるようなせん断力)が及ぶ.この身体的影響は短時間でも生体組織に不可逆的なダメージを与え,それが褥瘡の原因となることが最近特に注目されている2).よって褥瘡の予防として,従来の体圧による圧迫力の軽減の観点のみならず,今後はずらし動作での「ずれ力」の軽減の観点も重視されなければならない.
患者とベッド間に置かれた材質の違いによる「ずり上げ力」の比較の研究3)によると,バスタオル・シーツ,ナイロン・シート,イージースライドの順に引っ張り力が軽減されたことが示されている.こうした先行研究を参考に,ずらし動作時の摩擦力を市販の体位変換介助物品以上に軽減でき,コストも安く,しかも使用後は清潔の観点から廃棄できるような材質はないかと考えていた私たちは,院内では毎日大量に「X線フィルム袋の患者名ラベル用紙の台紙」が発生していて,それが通常はそのまま廃棄物として処理されていることに注目した.
この台紙はこすり合わせてみるとツルツルと滑らかに動き,摩擦がとても小さいように思われた.そこで,これを患者のずらし動作時に役立てられないか考えた.臥床状態の患者にかかる体重付加の割合は,胸・腹部に33%,殿部に44%といわれているので,特にこうした大きな体重付加の部分にこのラベル用紙の台紙を挿入し,ずらし動作時のずれ力の軽減を目指した.
Copyright © 2006, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.