連載 明るい肉体⑨
精液
天田 城介
1
1立命館大学大学院先端総合学術研究科
pp.60-62
発行日 2007年1月1日
Published Date 2007/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661100628
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「さっきのアレ(精液),また天田くんが掃除してくれたの? ありがとう.最近ずっとって聞いていたからイヤだな~って思ってたけど,まさかアタシが目撃してしまうとは.なんで病院であんなことするかな.気持ちワル~イ.アタシ,さっきトイレ介助でドア開けた時,思わず『ウギャ!』って声あげちゃった.は~ぁ,今日一日が憂鬱な気分だ.犯人はどこのどいつだ!」
◎精液について書くのはひどく憂鬱な気分になる.凄まじく憂鬱だが書き進めよう.不思議なことだが,精液を想像する時,私には梶井基次郎の「桜の樹の下には」(『檸檬』所収)の一節がふと頭の中を通り過ぎていく.こんなふうに文章は始まる.「桜の樹の下には屍体が埋まっている! これは信じていいことなんだよ.何故って,桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか.俺はあの美しさが信じられないので,この二三日不安だった.しかしいま,やっとわかるときが来た.桜の樹の下には屍体が埋まっている.これは信じていいことだ.」この狂気に強く共鳴してしまう私が確かにいた.それは間違いない事実であった.
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