- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
臨床のどうして? その8
むせていなかったのに誤嚥性肺炎……? の謎
75歳の時に脳梗塞を発症した,現在80歳の男性患者さんがいます.軽度の右片麻痺があり,ADLは車いすレベルです.
ご家族によると,ここ数日元気がなく,車いすに乗るのも嫌がって眠ってばかりだったとのこと.食欲もないので熱を測ってみたところ38.3℃.外来を受診し,入院となりました.
入院時はぼんやりしており,体温38.7℃,呼吸回数22回/分.補助呼吸筋の緊張はありませんでしたが,酸素飽和度は86%でした.また,口腔内は乾燥し,上口蓋に乾燥した茶色の痰がこびりついており,口臭がありました.総入れ歯ですが,ここ数日眠ってばかりで食事をしていないため,外していたそうです.胸部X線写真では右肺に浸潤影が認められ,誤嚥性肺炎と診断されました.
入院後,酸素吸入,禁食・輸液管理,抗生物質の使用によって数日で解熱.酸素飽和度も正常値となり,口腔ケアを行なって口腔内も清潔になりました.しかし,入院時からのぼんやりした感じは改善されず,昼も夜もウトウトしていることが多くてよだれが目立ち,ご家族からは「ぼけてしまったんじゃないでしょうか」という不安の声が聞かれるようになりました.
そこで,刺激のない生活が“ぼんやり”の原因と考え,主治医と相談して食事を開始しました.入院前はご家族と同じ食事をしていたそうですが,入院前後で1週間ほど入れ歯を外していたためか,入れ歯が合わずに落ちてしまうので,キザミ食にしました.ご自分では数口しか食べなかったのですが,介助するとほぼ全量食べることができました.その時,とくにむせる様子は見られませんでしたが,食後の口腔ケアでは食物残さが目立っていました.
食事開始後2日経ったある日,ぼんやりした感じは改善しないままでしたが,介助すればほぼ全量食べられるので,ご家族と主治医とで「慣れた自宅の環境に戻すのがよいだろう」と退院について話し合いました.しかし,その日の夜に再び38.8℃の発熱.禁食・輸液管理になり,翌日の胸部X線写真で誤嚥性肺炎の再発と診断され,退院は延期となりました.
とくにむせることもなく上手に食べられている様子でしたし,食後の口腔ケアもきちんとやっていたのですが,何がいけなかったのでしょうか?
Copyright © 2006, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.