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はじめに
輸液速度管理は看護師の業務の1つである.しかし,看護師の業務はこれ以外にも多岐にわたっており,多忙の中で輸液速度調整を行なうことは事故の発生率を高くする.とくに,循環器疾患患者に対する輸液では,微量で大きな薬理作用を有する薬剤を使用することが多い.そのため,輸液速度の超過は患者の重篤化を招く可能性が高い.また,心臓への負荷を軽減させ,水分のIN/OUTのバランスを図るという点からも,輸液滴下速度は厳重に管理する必要がある.
当院の循環器センターでは,輸液速度超過の事故が2002年4月~2003年9月までに70件発生していた.その原因として,患者が適切な体位をとっていないにもかかわらず滴下調整を行なったために,その後患者が体位を変換したことで滴下が早まってしまったケースが多かった.しかし,それらの事故に対する予防策は「今後はもっと注意して確認する」「ダブル/トリプルチェックをする」など,看護師の意識の改善を促すもの,業務負担を増やすものばかりであり,これらの予防策による業務負担がさらなる事故を誘発することが危惧された.
そこで,当院では2002年よりQIPを導入し,業務改善の1つとして市販のダブルクリップを用いた輸液速度超過の防止に取り組んだ.この改善には部門を超えた多くのスタッフの意見が反映され,また,今までにない概念に基づいての手法であったため,理解を得るのに時間を要した.
本稿では,実際に病棟でクリップを使うに至った経緯と,その後,看護業務にどのような影響があったかを報告する.
・QIPとは
QIP(Quality Innovation & Improvement Program;品質改善プログラム)1)とは,「品質改善及び改革のプログラム」として産業界で取り入れられ,「品質改善とコストリダクション(低減)のツール」として利用されている手法である.
・当院におけるQIP活動
当院では,QIPが「リスクマネジメントシステム構築」と「医療業界が抱える品質経営課題の解決手段」としても利用できるものと考え,導入した.
今回は,「輸液速度超過による事故防止」についてQIP個別改善分科会で検討した.本会は「現状の業務にとらわれず,柔軟で豊かな発想を持ち合わせていること」を条件に,各部署(看護部・薬剤部・設備管理室・事務部・ME(臨床工学部)・リハビリテーション科)から選出された若手のスタッフを中心としたチームである.
本会では,2000年から2年間の417件のアクシデントレポートの集計結果から,点滴・注射に関するミスが39%に及んでいることを突き止めた.そこで,点滴ミスに焦点を合わせ,さらにポイントを絞るため,2002年4月から6か月間の点滴・注射に関するインシデント・アクシデントレポート199件の内容分析を行ない,改善課題を明確にした.その結果,「輸液速度超過」が38件(19%)を占めていることがわかった.
本会はこれを最初に取り組むべき課題とし,輸液速度に変化を及ぼす要因を調査することにした.
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