歯科医の体験的口腔保健指導—現代女性のライフサイクルを見すえて

口腔の健康は人生の出発点から

　妊娠・出産を成しとげることは女性にとって非常に劇的な出来事であり，女性としての生き方が多様化している現代社会のなかでその事実に対する受けとめ方は多種多様，実に複雑であろうと思われます。大半の女性が結婚して家庭に入り子供を産み育てるのが「女性の仕事」であった時代とは明らかに状況が違ってきており，「妊娠・出産」は女性としての生き方の選択肢のひとつとして捉えられてきているように思います。また，「妊娠・出産」を選択した妊産婦さんの中には，自分の妊娠以前に親戚の赤ちゃんの世話をしたり，年長の方から育児の体験談を聞いたりする機会を持たずにいきなり「母親」になる女性も多く，未知の世界に対して不安に駆られている方が多いようにも感じます。

　小児歯科の外来では，お母さんに子供の仕上げ磨きを実際にやっていただくことがありますが，まさに恐る恐るのおぼつかない手つきで歯をなでるかのように磨く方がとても多いのです。が，今度はご自分の歯を磨いていただくと意外に上手なのです。「あまり強く磨くと痛そうだから」というお母さんの言葉の中に子供に対する自信のなさを垣間見るような気がすることがあります。現代のように核家族化した家庭の中で親が自信を持って新しい生命を心身共に健全に育てていくことは以前にもまして難しくなってきています。コンビニエンスストアなどで簡単に調理済みの食品を購入することができ，レンタルビデオ店は深夜まで営業といった具合に利便性に優れた現代社会での生活に慣れていますと，妊娠したからといって生活習慣を変えることはなかなか難しいのが現状でしょう。