特別寄稿
美術の中のこどもたち
長岡 由美子
1
1東京国立博物館学芸部
pp.1069-1073
発行日 2001年12月25日
Published Date 2001/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611902781
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こどもを取り巻く環境は,昔と今とで格段に変化した。医学の進歩と生活の向上のおかげで,生まれたこどもは多くの場合,無事に成長するようになり,疫病や天災,飢饉などでたくさんの小さな命が天に召された事実は,少なくとも日本では過去の歴史となった。その反面,いじめ,虐待,悪質ないたずらや殺人など,日々,こどもをめぐる深刻な事件が次々と報道される。その多くが,物質的に豊かな現代社会の醜く歪んだ一面を浮き彫りにしている。また,海外では戦争によって身も心も傷つき,命まで奪われるこどもたちが何百万人もいて,弱い立場のこどもたちに犠牲を強いることを悔いない大人のエゴが蠢いている。次々と沸き起こる災難に,こどもたちの将来は決して穏やかではない。
いま,大人たちはこどもに対して何ができるか,何をすべきか。答えを探すのは難しいが,祖先が,長い歴史の中で,こどもという存在をどう捉え,どう育んできたのか,ということを改めて振り返る時,そこには,私たちが忘れてはならない何か,があるような気がする。
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