Medical Essay メスと絵筆とカンバスと・4
美術の旅—エジプト
若林 利重
1
1東京警察病院
pp.526-527
発行日 1993年4月20日
Published Date 1993/4/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407901154
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1965年の1月末にインド,インドネシヤの旅から戻って,大分たまっていた手術を片付け,3月末の日本消化器病学会に出席したあとすぐに今度はヨーロッパの旅に発った.この旅には二つの目的があった.旅の前半はエジプトをはじめヨーロッパ各地の美術館巡りとゆくさきざきでのスケッチが目的であった.後半はリヨン大学のマレー・ギイ(Mallet Guy)教授の手術とラジオマノメトリーの見学が主な目的であったが,ちょうどこの間にリヨンで開催された国際肝臓学会に出席することも目的の一つであった.前半には40日,後半には60日をあてるというスケジュールを組んだ
当時私どもの病院では研修のために毎年1名ずつ部長を海外に出張させていた.私の順番は思ったより早く回ってきたのである.出張期間は3か月以内ということで旅費と宿泊費が支給されたが,その頃の1ドルは360円であったからその額では1か月がいいところだった.政府の外貨の割当も大体その程度の額が上限であり,ドルの持出しは極度に制限されていた.また,今とちがい日本の円は外国では通用しなかった.それでも食いつめた生活をして6か月も食いのばしたという部長もいたし,3週間で音をあげて帰国した部長もいた.私は普通の生活をして実際に3か月余の旅をつづけたのである.旅の途中で2回家から送金してもらったわけだが,この送金には特別の証明が必要であった.
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