新生児学基礎講座[臨床編]・28
母乳栄養
仁志田 博司
1
1東京女子医科大学・母子総合医療センター新生児部門
pp.167-173
発行日 1992年2月25日
Published Date 1992/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611900514
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1.なぜ母乳栄養であるべきか
人間は5千種ほどある哺乳動物の一種にすぎない。哺乳動物がその子孫を残すための子育てにおいて,母乳を飲ませる形を取ってきたのはなぜであろうか〔例外的にある種の魚(ディスカスミルク)や鳥類(鳩の砂嚢)にもそれらしきものがあるが〕。その理由の1つは,高等な動物ほど体に比べて頭が大きいので,胎外生活ができるほど子宮内で成長してしまうとその出生が困難になるために,未熟で生まれてから母乳によって成長を続けなければならないと考えられる。
しかし,もう一歩進んで考えてみるならば,下等な動物は出生後の能力のほとんどすべてを,すでに出生時に本能として備えているが,哺乳動物においては出生後の長い間母親に育てられることによって,その後生きていくための種々のことを学んでいく。すなわち,単に本能的な持って生まれた能力で弱肉強食のジャングルの中で生きていく生き物とは違って,人は社会で生きていくための知恵すなわち,人を愛する心や社会に協調することなどを母親の胸に抱かれて母乳栄養を受けている間に学ぶのである。このような母乳栄養の,子供の将来に及ぼす影響の重要性に基づき,「子どもの権利条約」の中には「子供は母乳を飲む権利(母乳権)がある」と謳われているのである。
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