特集 主体的な出産
水中出産—出産の原点にふれる
久 靖男
1
1久産婦人科医院
pp.405-409
発行日 1987年5月25日
Published Date 1987/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611207134
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はじめに
私たち周産期医療に携わる医者や助産婦の心の中にはどこかに"産ませてやる"という驕った気持ちが潜んでいないだろうか。今までの医療は医者側の"治してやる"患者側の"治してもらう"という上下の人間関係の上に成り立っていた。したがって医療を行なう側は暗黙のうちに患者が自分たちの治療方針に従うことを求め,患者もまた治してもらうのだから従わなければならないのだという心理状態におかれていた。周産期の医療もまたこのような医療の人間関係をそのまま反映し,そのために産婦やその家族の心理,要望を無言のうちにおしつぶし,安全性という美名のもとに,出産という希望に満ちた厳粛な営みを,味気ない,時には苦痛に満ちた体験におきかえてしまっていたことが多かったのではなかろうか。
私が18年前産科医としてスタートした時から心の中に芽生えていた疑問—それは母親と子供とその家族にとって最もよい出産とは何なのだろうかという疑問であり今も私にとって最大の課題となっている。最も苦痛のない出産を求めて無痛分娩を選択した大学時代や母子にとつて最も安全な出産は何かを追求した大阪府立母子医療センター時代にも,本当に母と子とその家族にとって望ましい出産とは何だろうかという疑問はいつも私の心から離れなかった。
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