連載 おとめ山産話
第三世代への進展
尾島 信夫
1
1聖母女子短期大学
pp.269
発行日 1987年3月25日
Published Date 1987/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611207099
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私はお産に対する女性の意識的態度を,歴史的にみて3世代に区別している。第1は女性の社会的地位も低く,苦痛や不安などを宿命と諦めてひたすらに耐え抜く「忍従出産時代」,第2は1847年のシンプソン以来の医師に依存型の「麻酔分娩時代」,第3世代はそれから100年後に名乗り出た心理的無痛分娩を基調とする,産婦の自覚による自主的出産へのチャレンジをその始まりとする。陸の孤島のようだった山梨県の棡原地区などでは,原始的な第1世代が今から30年前まで存続していたし,横浜で私たちが第2世代に踏み込んだのは終戦直後である。しかし今や女性の知的向上と助産婦諸姉の努力に促されて,全国的に第3世代の出産が確実に浸透し始めていると私は思う。
最近,S博士は地方のある学会で,「近頃産婦の自主的な分娩とよくいうが,産婦が自分でお産を始め得るわけでもなく,胎児からのホルモンが分娩発来の主導権をもっており,胎児自身が産道をさぐって出て米るので,むしろ胎児に自主性があるといわねばなるまい」と述べた。確かに,妊娠や分娩は,胎児の副腎からのDHA等に支配され,また産婦の大脳辺縁系や自律神経系等の活動によって,自然に進行する。しかし,いやそれだからこそ女性が大脳皮質を働かして自己の潜在能力をあらかじめ理解し,その進行に理性的に調和し,自分の理想,目的に利用しようとする態度,それを自主的というのである。
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