産育習俗今昔
9.個の発生—命名習俗から
鎌田 久子
1
1成城大学
pp.766-769
発行日 1982年9月25日
Published Date 1982/9/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611206089
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命名の日数
子供の名付けは,今日では14日以内につけるものと法律に定められているが,ひろく一般の習俗としては,生後7日め,いわゆるお七夜といわれる日に命名する所が多い。しかし生まれた直後につける所もあり,この名付けの日の定め方には,そのまま前代の日本人の生児観の一つがあらわれているのではないかと思う。
まず一番早いのは,生まれた直後につける習俗で,たとえば長野県西筑摩郡王滝村では,生児を取りあげるとすぐ仮の名をつけるという。これはヤマノモノ(獣)に名をつけられると生児の寿命がないといって,早くつけるのだという。千葉県香取郡でも生後すぐ仮名をつける。名をつけないうちに地震があると,子供に不祥事があるといって,健康な祖父母の名前などを仮につけておくという。南の沖縄では,子供が生まれるとすぐ,生児の性を反対にいって,固有名詞ではないが,呼称として,男の児ならばウフイナグ(大女),女の児はウフイキガ(大男)とよんだという。生まれた直後に何らかの名称を与えるのは,いずれも雷にとられないためとか,悪霊がその子供の身体に憑かぬためなどと説明しており,名をつけることによって,生児の存在を確立して,邪霊から生児を守ろうとする前代の親達の願いがよくわかる。悪霊の入らぬよう,一個の独立した人間であることを明言しておくための仮名であったわけである。
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