特集 妊娠・出産とこころの変化
妊産婦のこころの動きと精神障害
市川 潤
1
1市立函館病院分院・精神科
pp.92-99
発行日 1982年2月25日
Published Date 1982/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611205968
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はじめに
子どもを生むというできごとは,単に妊婦が分娩し,子どもを養育するという素朴な生物学的作業ではない。子どもを生むに至るまでには,母となる人の実生活上のさまざまな体験や考え方が紆余曲折してきたであろうし,父となる男性との人間関係にとどまらず,自分の幼児期からの両親その他との家族関係,あるいは価値観なども影響しているにちがいない。さらに,文化・宗教・社会・経済的な諸要因や,妊婦自身の身体的条件の影響なども加わってくるであろう。2回目の出産は初産との関係もあるだろう。
そのような諸要因の集積が基礎にあって,積極的あるいは消極的な,時には生まれる子を育てるつもりのない妊娠が始まることになる。さらに,妊娠が経過するうちに,あるいは,子どもが生まれることによって,それらの要因が良かれ悪しかれ変化して再構成され,新たな事態が発展してゆくことになる。つまり妊娠・出産をめぐるもろもろのできごとは,まさに,妊産婦とその周囲の人たちの歴史を反映しているといってよいだろう。
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