特集 生命科学へのアプローチ
「生命現象」の解読
長野 敬
1
1自治医科大学・生物学
pp.25-29
発行日 1982年1月25日
Published Date 1982/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611205952
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生物学は生命を扱うということから,物理学や化学とは違う特別な感じで,社会から迎えられているように思う。その感じは,一種の親しみといってもよいだろう。生物学は,たとえばミミズのような「下等」動物や,松の木のような植物,さらには細菌やウイルスをも研究対象にするが,ミミズが「生きている」というときにも,私たちはそれとなく,「人間は生きている」ということ,さらに直接には「自分が生きている」という感じをそこに重ね合わせているのではあるまいか。自分自身のこととなれば,親しみをおぼえるのも当然である。
ところがその反面,過去2世紀ほどの生物学はそれとは対照的な姿勢で生命にたち向かってきた。顕微鏡とか測定装置の向こう側に生きものや,生きものから得た核酸とか酵素とかの物質を置いて,それらをひたすら分析的に調べてきた。親しみとか感情移入とかはしのびこむ余地のない,「科学的」な姿勢であった。そうして得られてきた現代の生命像は,ひと口にいえば複雑で精巧な分子機械ということである。しかも分子機械というこのイメージは,松の木やミミズにとどまらず,私たち人間自身にまでつながっている。
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