特集 現場助産婦症例集
わたしの経験談
篠原 たか子
1,2
1旭川鉄道病院
2北海道大学医学部附属助産婦学校
pp.12-16
発行日 1971年1月1日
Published Date 1971/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611204039
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雪の激しく降る夜,父の大きな声でおこされた。母のお産である。「たか子,火をたいてたくさんお湯をわかしておきなさい」といって出かけて行った。不思議だなと首をかしげていたら,なにやらにぎやかな産婆さんが父と急いで入ってくる。いよいよ生まれるのか? やがて「オギャー」と元気な第一声である。さて男児か女児か?兄妹たちと賭ける。「今度は男だ」「いやまた女だ」「いやあの泣き声は男にちがいない」と夜中の議論が始まる。それではと先発隊が確認にでかける。しのび足でお産の部屋の前まで行き,人さし指をなめてぬらし,音のでないようそっと障子に穴をあけ,片眼でのぞく。このときは呼吸を忘れている。間もなく「こらっ」と父の叱り声,今度はどたどたと音をたててあわてて帰ってくる。残念ながら性の確認はできなかったようだ。
そして,産婆さんから発表されるまでは,胸が苦しくなる想いで待っていた。いま生まれた赤ちゃんが女か男かということは,兄1人とわたしからあとは全部女の子ばかりのわたしたち兄妹にとって大問題なのである。(兄はとくにキャッチ・ボールの相手として弟を切望していた。)
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