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はじめに
お産の苦痛から女性を救うために,現在いろいろな無痛分娩が行なわれています.これを大別すると,薬品・機械を使用して行なう方法と,これらを利用せず産前教育とお産に必要な補助動作の指導による方法とがあります.前者は"お産は当然痛みを伴うものであるから,薬剤などを用いなければそれを除く事はできない"という考え方から出発しており,お産の費用の他に,これに要する費用がわりに高くかかる点,入院を必要とする点,助産婦だけではできないなどの理由から大衆的に普及されていません.一方後者の方は"お産の痛みは,むしろ妊婦のお産に対する知識の不足と,医師や助産婦のそれに対する指導の欠如から産婦を精神的不安状態におとしいれ,それが痛みを感じさせる最大の因子となっている"という考え方から出発したもので,前者の欠点はすべて補っていますが,産前教育の面倒な事(医師や助産婦がそれの指導にさく時間的余裕がないため)教育自体のむずかしさや妊婦の意欲の有無などにより,大衆的要素を多分にもちながら必ずしも普及されていません.
精神予防性無痛分娩を,暗示や催眠と考えられる方がありますが,暗示や催眠はそれをかける側とかけられる側があり,かけられる方は全くの受身で自分の意志はそこに働きません.精神予防性無痛分娩は,理論的に確固とした大脳生理学に基いて考案されたもので,あくまでも教育です.したがって教育する側がいかに熱心であっても,教育される側が積極的に理解して自分のものにしようとする自主的意志が働かねばなりません.したがって講義中居眠りをしたり,補助動作の練習を効果を疑って練習しなかったりする人は効果をあげることはできません.『お産は痛いと思うから痛い,痛くないと思えば痛くないのだ』などという神がかり的説明で盲目的に理由もなく痛くないと思え,などというものでなく,科学的にお産を正しく理解し,それを出発点にして無痛分娩を行なうとするもので,誤解のないようにしていただきたいと思います.
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