柏原病院からのレポート・5
物に頼りて限りあり,心に頼れば限りなし
冨田 重良
1
1兵庫県立柏原病院
pp.62-63
発行日 1976年4月1日
Published Date 1976/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541205880
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重装備高度医療機能病院の悩み
最近わが国病院医療の技術的進歩は,まさに驚嘆に値すべきものがある.次つぎと増・新設される大病院には,最新鋭設備がこぞって導入され,世界の最先端を行く医療行為も少なからず行われている.しかし,その輝やかしい表面とは裏腹に,一歩中に入ってみれば,各種の労働問題,看護婦不足による病棟閉鎖,急増する赤字など,あまりにも数多くの難題が山積しているのに気付くことであろう.いわゆる重装備高度医療機能病院の悩み1)である.
それは,物に頼って心を忘れていた現代の悪弊の象徴なのでもあろうか.たとえば,有力自治体が,福祉時代の目玉商品として金には糸目を付けずに,大都会に立派な設備の病院を作る.高度医療を希求する医師たちは喜んで集ってくることであろう.しかし,病院は工場とは異なり,感情に左右される人間を主要な構成要素とするシステムなのである.おまけに一般的に言って,医師以外の医療従事者の待遇は粗末である.もし,そこで働く人たちに思いやり,没我,協調などといった「医療の心」が養成されていなければ,そして医師だけがスター扱いされているあり方では,恵まれぬ立場の補助部門に不満がうっ積し,これが労働運動に転化される.かくてこのシステムの円滑な作動が妨げられ,いくら資金を注ぎ込んでも,十分な実効をあげえないというのが実情ではなかろうか.
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