講座
こどもの歯が育つまで
山下 浩
1
1東京医科歯科大学
pp.26-32
発行日 1963年1月1日
Published Date 1963/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202469
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はじめに
咀しゃく運動とは,食片を細粉して唾液と混和することであるが,食片を細くかみくだく目的は,食片の表面積の総和を大きくして,消化作用を容易にすることであり,唾液と混和することは,唾液中の消化酵素(プチアリン)の作用を十分に発揮させて,口腔内消化作用を促進させるためである.すなわち消化の第一歩である食片の細粉を行なうものは,いうまでもなく歯である.
このような事柄は,こどもの場合には特に重視する必要がある.旺盛な成長発育を示すこどもの栄養問題は,哺育上の最も大きな仕事であって,成熟するために必要な栄養の与え方や種類などを考える前に,歯で十分に咀しゃくができるかどうかを考えることを忘れてはならない.このように咀しゃく運動は,こどもが成熟するために必要な栄養摂取の必須条件であるということの外に,この運動が発育刺激として,口腔領域の成長に必要なものであるということには,あまり関心を払われていないのが現況である.特にこどもの下顔面を構成している組織器管,すなわち顎,咀しゃく筋群,歯列,歯などの正常な成長を期待するには,十分な機能を発揮できる正しい咀しゃく運動が必要なのである.
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