産科こぼれ話
手術室奇談,他
pp.26
発行日 1960年11月1日
Published Date 1960/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202018
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これは或る大学病院の越中褌愛用の某先生の逸話である.此の先生は戦前からの越中褌愛用者で,しかも毎日洗濯して交換しないと気分が悪いという習性の持主であつた.そもそも越中褌なるものは極めて便利であつて,洗濯も簡単,乾燥も短時間で済み,風通しが良いため,湿気に対し十分偉力を発揮する上に,時には手拭を忘れても入浴するに事欠かなく,更に携帯に便利という事から衛生的,経済的に右に出るものはない由.しかし欠点としては,あまりにも軽便過ぎて,盛夏の候宿直室などで熟睡の果てに,排臨状態のまま知らずにいて,報告に来た助産婦達を仰天させることがしばしばあるという.
帝王切開手術は,大学病院では婦長以下,勤務中の助産婦は1〜2名を残してあとは総動員で手術室で立働く習慣である.其の日もその先生,帝切を終了し,ごつた返している手術から出て来て,例の如く,リカバリー室に丸めてたたんでおいた新らしい越中褌をたずさえて入浴しようとしたところが,くだんの褌が見当らない.その辺を引掻き廻してみたが一向に行先が判らない,果ては大きな声で,"俺の褌,何処へやつた"と怒声り始めたところ,一人の助産婦が手術室からかけ出して来て"すいません.つい間違えまして.
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