講座
乳児の悪癖としつけ
後藤 成男
1
1三菱東京病院小児科
pp.26-28
発行日 1958年6月1日
Published Date 1958/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201486
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
新生児期に於ける感情の表現は単に空腹時の不快感に対して泣いて訴える程度のものである.然るにブリツジスの説によれば,その後の精神作用は逐日発達して生後約3カ月頃には喜びと悲しみ又は苦しみが出現し,6カ月頃には怒り,嫌悪,恐怖が見られ,12カ月頃には得意さ,愛情心さえ生ずるようになるとされている.このように僅か1カ年の間に非常な精神発育をみるが,この精神発育を左右するものは素質と環境である.環境の相違は民族,生活様式の相違とも密接な関係があるが,特に乳児の保育者である両親を初め家族,その他の人々の影響が極めて大である.
乳児は自己の楽しみや快感を満足させることは何でも要求する.動作そのものには大して興味を感じなくとも,周囲の人々の態度に興味を持つ様なこともある.例えば乳児が人形等を床に投げつけ,両親は笑顔をもつて何度でもそれを拾い上げ乳児に渡しているのを見るが,これは乳児が床に投げつけるそのことに興味を感じていると云うよりも,むしろ家庭に於ける自己の存在がみんなの注目を惹いていると云うことに興味を感じ何度でも同じ動作を要求するものである.それはこの動作に対して叱つた場合にもみんなの注目を惹いているものと感じ再び要求する場合もあるが,周囲の人々がこの動作に対して注目しない様な態度をとり,他の動作に非常に注目するとこの動作を再び要求しないようになる.
Copyright © 1958, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.