社會の動向
中国のローマ字運動と国字問題
長谷川 泉
1
1医学書院編集部
pp.28-29
発行日 1958年2月1日
Published Date 1958/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201418
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中国は漢字の国である.漢字には多くの利点がある.この頃,岩波書店から出ている「中国詩人選集」などという本は,ずい分多くの読者を獲得しているという.李白にしても杜甫にしても,これらの魅力は,その詩想や発想のすばらしさもあるかもしれないが,漢字というものの持つ特徴に頼つている点が多い.佐藤春夫の訳した「車塵集」という中国の訳詩が愛誦されたこともあるが,大体において漢字の持つ魅力というものはいちがいには否定できないように思う.
だが,一方漢字には,多くの困つた点がある.表意文字であるから,表音式のabcなどと違い多くの基本文字が必要となる.第一,ちよつと考えてみても,表意文字では,電報というものは打てない.文字を表音式の記号に変えるか,あるいは数字にでも換算してみないことには,電文は綴れないということになろう.数多くの漢字を覚えることは大変な労力と時間を要することで,そのような多数の文字を覚えることから始めるのではなかなか教育の実はあがらないことになる.印刷所は,この多くの漢字を作り,また蓄える機能を備えていなければ用が弁じられない.abcの字母を持つていれば,それをタイプに打つて,どんどん印刷が出来てゆくというしくみにくらべるならば,まさにそこには天地の差があるということになる.
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